交流分析(TA Transactional Analysis)について ~現代の交流分析 基礎~

 

 自分を知る手がかり

 

 私たちは、できればよい人間関係でありたいと望みながら、こじれた人間関係を経験してしまうことが意外と多いのではないでしょうか。

 そうした結果を引き起こしている原因はいろいろと考えられますが、その一つは、私たちが “今、ここ” での自分自身について、あまり気づいていないことが一つの原因かもしれないのです。

 

 

 

1.交流分析とは、その特徴とその哲学

 

 交流分析は、アメリカの精神科医、エリック・バーン博士(1910-1970)によって開発された臨床心理的な分析のシステム(理論と技術)です。

 臨床心理というと、難しいという感じを持ちますが、交流分析は意思や専門家でなくてもわかるようんい、日常よく使われている言葉によって組み立てられています。

 そのため、誰もが自分自身の心の状態やあり方を分析することで、自己成長への意図口を見出すことができます。

 

その特徴としては、

  1. 内容が分かりやすく、具体的な言葉で表現される
  2. フロイトの精神分析を基礎にした科学的な考え方と実践方法
  3. 人が関係しているどのような場面にも適応できる
  4. 対人関係を円滑なものとするためには、まず自分のありように気づき、自分自身が変わることによって可能なものになる、という考えに基づいている

が挙げられ、その他にも「セルフコントロール」と言われる、「過去と他人は変えられない。変えられることができるのは、”今、ここ”の自分である」というのが交流分析の基本姿勢も加えられる。”今、ここ”から始まる自分の未来が変わる。

 

交流分析の哲学は、以下の3つです。

  1.  「人は誰でもOKである」
  2. 「人は誰もが考える力を持っている」
  3. 「自分の人生は自分自身が決め、そしてその決定を変えることができる」

 

 

 

2.「心」の成り立ちとその機能を知る ~自我状態~

 

交流分析では、心を「P」「A」「C」の3つのモデルに分けて考えています。

こうすることで、“心の仕組み”が理解しやすくなり、場面によって変化する心の状態「自我状態」を図化して確認することができます。

 

P  Parent   「親」

A  Adult  「成人」

C  Child  「子ども」

 

また分析する方法として、2つの種類があります。

1つ目の「機能分析」は、コミュニケーションなどにおいて“今ここ”で現れている自我状態を5つの機能(働き)として分析します。

2つ目の「構造分析」は、PACから成る自我状態をパーソナリティの成り立ち・中身を成長過程とともに分析することです。

 

 

次に、自我状態の5つの機能の関係と、その心的エネルギーの大きさを棒グラフや折れ線グラフで表したものです。

 

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 エゴグラムは、人それぞれ特有のものですが、その時、その時によって変化します。例えば、仕事をしている時のエゴグラムと家庭にいる時のエゴグラムが大きく変わる人もいるでしょう。

 その変化を目で見ることで、個人の特徴や個性に気づくことができます。また、心のエネルギーのどの方向に使うかを考えることで、自己成長に役立てることができるのです。

 

 

 

3.よりよい人間関係をつくる対話 ~やりとり分析~

 

 やり取り分析とは、「二人以上の人の間で行われるコミュニケーションについて、そのやり取りを分析すること」です。

 コミュニケーションでは、発信内容をどのように理解するかは、“受け取る側にある(受け取り手次第”と考えます。言い換えれば、相手に分かってもらうためには相手が理解しやすいことが、言い方だけではなく、分かってもらえる表情や態度、ジェスチャーも必要です。そこで、やり取り分析では“対話の一往復を一単位”として、どのような自我状態(P・A・C)からのやり取りが行われているのかを矢印(ベクトルの向き)で表します。

 

やり取りの3つの種類

1.相補交流

 相手から期待している通りの反応が返ってくる

2.交差交流

 お互いの気持ちがすれ違うような状態

3.裏面交流

 本音と建前のような、表面上の言葉の裏にもう一つ別のメッセージがあるやり取り

 

周囲とのよりよいコミュニケーションのために、日常のあなた自身のやり取りのパターンを振り返ってみましょう。

 相補交流をしているのは、誰とどんな場面が多いですか?

 交差交流をしているのは、誰とどんな場面ですか?

 裏面交流をしていることがありますか?それは誰とどんな場面でしょうか?

 

 

 

4.人が元気になる「心」の栄養 ~ストローク~

 

 私たちは、日常生活の中で知人と出会ったら挨拶をかわします。この挨拶の意味は、「相手に心を開いて向き合う」といわれ、心と深い関係があります。

 この挨拶のように、相手の存在や価値を認める具体的な言葉、話し方、表情、態度などを通じて、「あなたの存在を認めているよ」と相手に働きかけることを「ストローク」と言います。

 

 ストロークには、「肯定的ストローク」と「否定的ストローク」があります。

 「肯定的ストローク」は、自分が受け取って安心感や心地よさを得られるもの、「否定的ストローク」は、不安な気持ちになったり、嫌な感じを受けたりするストロークのことです。

 また、これらストロークの中には、行動や動作から成る「身体的ストローク」と、表情や行動から成る「精神的ストローク」があります。

 さらに、「条件付きストローク」と、「無条件ストローク」という相手の好意や行動に限定した何らかの条件を付けたものもあります。

 

 このようにさまざまなストロークがある中で、ストロークは与えられた種類のものが与えた量だけ返ってきやすく、ギブ&テイクのような関係にあります。相手に関心をもって接すると、相手も同じようにあなたに関心をもって接してくれるでしょう。

 良いストロークの交換を行い、良好な人間関係を築くように心がけることが大切です。

 

 

 

5.私たちの生き方、ものの味方 ~人生の立場~

 

 交流分析では、人生に対する姿勢を「人生の立場」といいます。“自分が自分に対してどのような考え方をしているのか、他人に対してどのような態度をとるのか”です。この人生の立場が私たちの日々の生活、その集大成であるその人の一生にはかり知れない影響を与えています。私たちの人生におけるさまざまな場面での、意思決定や行動に人生の立場が関わっています。

 

 具体的には自分自身が、自分または他人に対して、肯定的に「OKである」ととらえるか、否定的に「OKではない」ととらえるかによってその人の思考と感情、行動が変わってきます。

 人は基本的にはOK-OKの関係で生まれてきます。生まれた瞬間から“今ここ”まで、自分や他人にも信頼の基礎になる体験を重ねて「基本的な信頼」が形成され、これが「人生の立場」です。

 

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 上の図のように、フランクリン・アーンストは人生の立場は4つあり、時と場合、相手によって移り変わりがあると考えました。この図は「OK牧場」と呼ばれています。

 「私もOK、あなたもOK」の立場は、交流分析が目指すゴールです。そのためには「今ここ」での自分のポジションに気づき、そこからの脱却を目指すのが交流分析の狙いです。

 

 

 

 

6.繰り返される、こじれたやりとり ~心理ゲーム~

 

 エリック・バーンは、心理ゲームを「明確で予測可能な結果に向かって進行する一連の相補交流および隠された交流」であると定義しています。

 なぜか、同じ人と似たようなことでいつの間にかやり取りがこじれていたりするような、繰り返し行われる不愉快なやり取りや行動パターンが「心理ゲーム」です。

 

 特に、私たちのストロークが不足していると、不安になり無意識のうちにストロークの交換をしようと行動します。この不足状態から、たとえ不快で否定的なストロークでもよいから欲しくなり、心理ゲームが仕掛けられるのです。

 

心理ゲームをやめるには

  • 相手からのゲームになりそうな言動には、「成人A」を働かせてゲームに気づき、のらない
  • ゲームに入ってしまったと思ったら、相手の予想外の反応をする
  • ゲームで味わう不快感を引きずらないで、気持ちの切り替えをする
  • 活動、親密、雑談の時間を増やす
  • 常日頃から肯定的ストロークの交換を意識して努める

 

 

 

 

7.豊かな時間を生きる ~時間の構造化~

 

 “人生の価値は時間の長さではなく、その使い方で決まる”

 “人生に喜び(幸福)を見出すかどうかは、その人のこころの持ち方で決まる”

 

交流分析では、人生の価値やその喜びは「時間の構造化(過ごし方)」で決まると言い換えることができます。その時間の構造化は、他人との接触や承認が得られるストロークの種類と量、質を段階的にとらえて、6つのカテゴリーに分類しています。

 

「時間の構造化」6つのカテゴリー

  1. 閉鎖・引きこもり
  2. 儀式・儀礼
  3. 雑談・気晴らし
  4. 活動・仕事
  5. 心理ゲーム
  6. 親交・親密

 

一生の終わりに「良い人生だった」といえるように「今ここ」での時間の使い方を価値あるものにするよう心がけましょう

 

 

 

 

8.私の生き方のシナリオ ~人生脚本~

 

 交流分析では、人は、「自分や他人はこういう人間だ。世の中とは、人生とはこんなものだ」という一つの見方、とらえ方を作り、成長する中でそれを強化していくと考えます。また同時に、「その中で、自分はこんな風に生きていこう」と幼いながらに心に決めているのです。そのように幼少期に決めた生き方を「人生脚本」と言います。

 自分が抱いている自分や他人や世の中に対する漠然としたイメージと、自分の人生の出来事との間には深いつながりがあると考えられます。いつも繰り返される自分の行動パターンや人生の出来事は、自分の人生脚本からきているのかもしれません。

 

 また、親や身近な人からのかかわりに対して、子どもなりに相手に認められ、受け入れられるように適応しようとして、子どもなりの直感や感情を用いて決定したものを「幼児決断」といい、幼児決断は人生のシナリオ、人生脚本のもとになっていきます。

 

 人生脚本の成り立ちとして、まずはストロークの受け方による人生脚本があります。幼児期に親または養育者とのスキンシップなどを含めたストロークの受け方によって決断されます。

 また親の中にある社会的な模範やルール、常識など社会生活に必要なものや、親の感情や声の調子(態度)から、親の本音を読み取ることができる能力を持つため、そこから人生脚本としてのメッセージも受けます。

 

 

 

 

交流分析の考え方に、「過去と他人は変えられない。変えることができるのは“今ここ”での自分だけである」というのがあります。

今の自分が変われば、未来が変わります。

どのような人生を行きたいのか、どのように人間関係を持ちたいのか、こうありたい自分に気づいたら、それを変える力は誰もが持っているのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

日本交流分析協会(2020)「現代の交流分析」.NPO法人日本交流分析協会